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札幌地方裁判所 昭和47年(わ)109号 判決 1972年7月19日

主文

被告人を判示第一の罪につき懲役八月に、判示第二ないし第四の罪につき無期懲役に各処する。

押収してあるバンド一本を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、北海道○○郡○○村において、父太郎、母春子の長男として生まれ、昭和三九年三月○○市の中学校を卒業後、同市および○○市で花屋の店員や建材店などの自動車運転手として働き、その間、昭和四三年に乙山夏子と結婚して長男一郎を儲けたものの、昭和四六年三月ころ、単身家を飛び出して結局同女と離婚し、その後は居所を転々としながら無為徒食の生活をしていたものであるが、

第一、昭和四六年三月上旬ころから同年五月一七日までの間、別紙犯罪一覧表番号1ないし3記載のとおり、前後三回にわたり、札幌市南六条西一三丁目花水荘内中野光彰居室ほか二か所において、同人ほか二名の所有にかかる現金三、〇〇〇円および普通貨物自動車二台など物品合計八点(価格合計約八一万〇、八〇〇円相当)を窃取し、

第二、同年一二月一八日から昭和四七年一月八日までの間、別紙犯罪一覧表番号4ないし10記載のとおり、前後七回にわたり、同市南七条西八丁目東本願寺境内ほか六か所において、北札幌電設株式会社ほか七名の所有にかかる現金五万三、五〇〇円および普通乗用自動車一台など物品合計五二点(価格合計約七三万三、二〇〇円相当)を窃取し、

第三、昭和四六年一二月末ころ、同市○○○×丁目所在バー「ルビー」でアルバイトをしていたホステス山田こと甲野花子(当時二二年)と知り合い、昭和四七年一月上旬ころには、右花子を同女のアパートまで送って行ったこともあった被告人は、同月九日夜同女の勤め先である同市○○○○×丁目所在のキャバレー「ニューサッポロ」に飲みに行った際偶々当夜はかねてから馴染みのホステスが休みであったところから店に出ていた前記花子を営業終了後誘って遊ぼうという気になり同店で同女を相手にビールを飲んだりしたあとの同日午後一一時四五分ころ、同女と連れだって、当時被告人が判示第二別紙犯罪一覧表番号4記載のとおり窃取して勝手に乗りまわしていた普通乗用自動車(札五な五四一〇号)で同市南六条西三丁目所在スナック「ラットハウス」に行き、同店で一緒に飲食し、翌同月一〇日午前一時すぎころ、「海を見たい。」という右花子を前記自動車の助手席に乗せて札幌市内から小樽市方面に向かい、途中、琴似駅前を経て石狩海岸近くの同市銭函地内に至って車を停めて休憩中、同女に肉体関係を迫ったところ、同女が「そんなことするんなら殺してよ。バックにカミソリも入っているから。」などと予想に反して凄い剣幕で怒り出したため同女の首を両手で絞めて押えつけたりしたものの同女の態度から肉体関係をすることはできないものとあきらめ、一旦は同女と仲直りをし理由もなく一緒に泣いたり雪合戦をしたりした後、同日午前四時ころ、再び車を発進させ篠路駅、丘珠空港付近を経て札幌市内に向かった。しかし、その間、機会があれば再度同女に言い寄ろうと思いつつもうまく口説くことができないまま、同市○○○○○×丁目所在の同女アパート付近まで戻ってきてしまったため、この機会をのがせば同女と関係することができなくなると考えた被告人は、前記の態度から同女との肉体関係を遂げるためには同女を殺害するより他に方法がないと決意し、同日午前五時二〇分ころ、前記アパートをわざと通りすぎ同市北三六条西三丁目付近路上に前記自動車を停車させたうえ、助手席でリクライニングシートを倒して眠り込んでいる同女の頸部に自分のズボンからはずした皮製バンドを巻きつけ、助手席に膝をつき同女の前面から約五分間その両端を力いっぱい両手で引っ張って絞めつけ、よってそのころ同所において同女を窒息死するに至らしめて殺害したうえ、強いて同女を姦淫し、

第四、判示第三の犯行の罪跡を隠すため、甲野花子の死体を遺棄しようと決意し、同日午前六時ころ、右死体を前記自動車に乗せたまま同所から同市新琴似一二条九丁目高松忠男方脇物置前まで運搬したうえ、着衣をはぎとって全裸にし同物置内に右死体を運び入れて放置し、もって右甲野花子の死体を遺棄し

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(確定裁判)

被告人は、昭和四六年七月一七日小樽簡易裁判所で窃盗罪により懲役一〇月(三年間執行猶予)に処せられ、右裁判は同年八月一日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書および判決謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の各所為は、いずれも刑法二三五条(別表3の事実についてはさらに同法六〇条)に該当するが、以上の各罪は、前記確定裁判のあった窃盗罪と同法四五条後段の併合罪の関係にあるので、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示第一の各罪についてさらに処断することとし、なお、右の各罪は同法四五条前段の併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により犯情が最も重いと認められる別紙犯罪一覧表番号2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を右各罪につき懲役八月に処し、

判示第二の各所為はいずれも刑法二三五条に、判示第三の所為中、殺人の点は同法一九九条に、強姦の点は同法一七七条前段に、判示第四の所為は同法一九〇条にそれぞれ該当する。

なお、検察官は、判示第三の所為は殺人罪(同法一九九条)および強姦致死罪(同法一八一条)に該当すると主張するが、この見解は一個の死を二重に評価することになって不当であるばかりでなく、右強姦致死罪は殺意なくして死の結果を生じさせた場合にのみ適用せられるべきものであるから、前記のように殺人罪および強姦罪(同法一七七条前段)に該当すると解するべきであり、このように解しても、右両罪は、一所為数法の関係となるのであるから、検察官主張の適条と比較して刑の不均衡を生ずることはなく、また強姦致死罪を、法定刑として死刑が定められている強姦殺人罪(同法二四〇条後段)と同様に解釈すべき理由もないというべきである。

このように、判示第三の殺人と強姦は、一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い殺人罪の刑で処断すべきところ、後記情状を考慮して所定刑中無期懲役刑を選択し、なお、右判示第二ないし第四の各罪は同法四五条前段の併合罪の関係にあるが、判示第三の罪につき被告人を無期懲役刑で処断する以上同法四六条二項本文により他の刑を科さないこととし、被告人を判示第二ないし第四の各罪につき無期懲役に処し、押収してあるバンド一本は、判示第三の殺人および強姦の犯行に供したもので被告人以外の者に属しないから、同法四六条二項但書、一九条一項二号、二項を適用してこれを被告人から没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書により全部被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件第三の犯行は、顔見しりのホステスを深夜ドライブに誘って肉体関係を求め、拒否されると、目的を果すためには殺害する以外に方法がないとのきわめて自己本位的、視野狭搾的な考えを抱き、まったく無抵抗の女性を自動車という密室の中でバンドで絞め殺したうえ陵辱を加えた極めて悪質な態様のものであり、そのうえ、右罪跡を隠蔽するため死体を全裸にし、酷寒の中他人の物置内に投げ捨てるという行為におよんでいることは、猟奇的とさえいえるものであり、このような本件一連の犯行には被告人にまったく良心の抵抗や人命に対する人の情、さらには躊躇の跡さえ見ることができず、ただ、残忍、冷酷という印象のみが強いものである。しかも、右犯行は、窃盗罪で保護観察付二度目の執行猶予の裁判を言渡された直後にあらたに盗んだ自動車を利用して敢行されているのであって、被告人には、従来の生活態度に対する反省や更生の意欲は全くみられずかえって、本件において認められる目的のためには手段を選ばないという人格態度をあわせ考えれば、被告人の反社会的性格はきわめて大きくその矯正は至難であるといわざるをえない。

したがって、右のような本件の情状に照らすと、被告人がいまだ二〇代の青年であることなど被告人に有利な一切の事情を考慮しても、なお被告人に対しては、きびしい刑を科するのもやむをえないところであり、諸般の事情を総合して被告人を無期懲役に処することにする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐野昭一 裁判官 太田豊 末永進)

<以下省略>

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